「息子が就職で家を出るんです。でも、この家族割から抜けちゃうと、私たち夫婦の料金が上がっちゃうのよねぇ…」
そう言って、少し寂しそうに、でもどこか申し訳なさそうに笑ったお母さんの顔を、私は今でもはっきり覚えています。
目の前には、進学や就職で未来に向かって羽ばたこうとする息子さん。そして、その背中を応援したいのに、通信費という小さな現実が、母親の胸に影を落としていました。
大きな船から小さなボートへ――家族割の光と影
私がこれまで店頭で見てきた「家族割」は、まるで大きな船のようでした。
同じキャリアにまとめることで、確かに全体の料金は下がります。便利さや安心感もある。
けれど、その船から一人が降りようとすると、船に残った人の負担が増える。その不均衡に悩む姿を、何度も目の当たりにしてきました。
あのお母さんの家族もまさにそうでした。息子さんは小さなボートで自分の人生を漕ぎ出そうとしているのに、その旅立ちが「家族の船」に残る人たちの負担になる――そんな矛盾がそこにありました。
若者が抱える「小さな罪悪感」
現場でよく耳にするのは、こんな声です。
「本当は格安SIMにすれば、毎月1,000円以上安くなるんです。でも、それを言うと親の割引が減っちゃうから…」
声のトーンは軽くても、その奥にあるのは確かな罪悪感。「自分の選択が、家族に迷惑をかけるかもしれない」という重みです。
私は、その小さなためらいが、自由に羽ばたくはずの若い世代を縛っているのを感じてきました。
契約者が抱える「見えない自己嫌悪」
一方で、契約者――多くの場合は親御さん――の胸の内も複雑です。
「子どもの選択を応援したい。でも請求書を見るたびに、家族割が減った分の金額が目につく。その瞬間、少し胸がチクリと痛む。」
そんな自分を責めてしまう、目に見えない自己嫌悪。
家族割の「名義変更」が簡単でないこともあり、定年後もずっと親名義で支払い続けるケースもあります。その時、誰にも見えない孤独な重荷を背負っている姿を、私は幾度も見てきました。
その「お得」、いつしか「家族を縛る」ものになっていませんか?
家族割には確かにメリットがあります。コストが下がり、管理がシンプルになる。私も現場で、その恩恵に救われた家族を何度も見てきました。
しかし同時に、以下のような現実があることも、私は伝えずにはいられません。
- 一人が抜けると、全員の割引が減ってしまい、心理的に自由に動けない。
- 名義が偏ることで、将来的に「名義変更」が大きな負担になる。
- 若い世代が本来もっと安いプランを選べず、長期的には損をすることもある。
つまり、「お得」を追いかけたはずの家族割が、いつしか「家族を縛る仕組み」にすり替わってしまうことがあるのです。
大きな会議の前にできる、小さな一歩
ここで大切なのは、「じゃあ、いきなり家族会議だ!」と身構える必要はない、ということです。
まずは、ご自身のスマホの利用状況を紙に書き出してみる。
あるいは、夕食のときにふと「最近、ギガって足りてる?」と聞いてみる。
そんな何気ない一歩から、家族の会話は自然と広がっていきます。
私が見てきた中でも、最初は小さな気づきや一言から、大きな見直しにつながったケースが数多くありました。
通信費の見直しは「家族会議」の最高のきっかけ
精神保健福祉士として、多くの家族の「言葉にならないすれ違い」や「見えない心の壁」に触れてきた私だからこそ、この通信費という身近な問題が、家族の対話を始めるための、極めて有効な「具体的な処方箋」になり得ると信じています。
だからこそ私は伝えたいのです。通信費の見直しは、ただの料金節約ではありません。それは「家族それぞれの“これから”を見つめる時間」になるのです。最高の“家族割”とは、割引額の大小ではなく、一人ひとりが自分に合った選択をし、その選択を互いに尊重できること。その瞬間、家族のつながりはより深く、風通しのよいものに変わります。
どうか、今このときに、小さな会話から始めてみてください。あなたの家庭にとって、その一歩が未来を照らす光になると、私は心から信じています。
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